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サイモン ラトル の演奏会 

サイモン ラトル の演奏会 _a0280569_23413589.jpg

先日の晩、出張から帰って来てとても疲れていたのですが、この夜ラトルの演奏会がある事にフト気が付き、ムチを打ちつつ出かけました。
(聴くだけの立場ですが体力も精神も使い果たします)
作シーズンに続いて彼がここのバイエルン放送交響楽団に登場するのは二回目の事で、
来シーズンからも引き続き来てくれると嬉しいなぁと思っています。

一部、彼の演奏に関してあれこれと批判している音楽ファンの方々もおられる様ですが、
多分それには大いに誤解も混じっているように思えて残念です。

私は彼が20歳代の頃、未だロッテルダム・フィルなどに客演していた頃から聴いてきましたが、
最初の出会いはアムステルダムのコンセルトヘボウでアーノンクールを聴きに行ったついででした。

曲はブルックナーの7番のシンフォニー。
演奏を聴く前はこの年齢の指揮者でブルックナー?? と懐疑的でした。
それまでこの曲はマタチッチを始めベームやヨッフムそれにハーグフィルとのシューリヒトなどの録音で
親しんで来ておりましたので、未だその時は彼の事を良く知らないで、さほど期待もせずに
聴きに行ったのです。

最初の出だしから音がスッーと滑らかに出てきて心地よい響き。
音楽は滞ることなく気持ちの良いテンポで生々と進んで行きます。
二楽章の穏やかで天国的な旋律も情緒たっぷり・・・
あの金管だけでモアモアと鳴って纏まらない所も綺麗にハモっていました。
自分のパートが演奏に参加しない部分でも楽団員の体が音楽に従って動いています。
これは楽団員も気持ちよく音楽に浸っている証拠で、指揮者に対する信頼の証でもあるでしょう。
実に素直で、良い意味での健康的な演奏、とても気持ちよく聴くことができました。

それ以来、彼の演奏会は足繁く、かつ注意深く聴いてきましたが、その名声は徐々に高まって行き遂には
ベルリン・フィルの音楽監督と云う最高のポジションにまで上り詰めました。
唯、彼はその地位に安住することなく絶えず何かに挑戦し続けているように思えます。
彼自身がまだ発展途上と思っているかも知れませんね。

ですから彼の解釈はいつも新鮮でテンポなども生々と弾み、まるでこの曲が昨日作られた様な
初々しさを感じます。
これが多分オールド・ファン辺りに落ち着きがないとか、深みに欠けるとかの評価になっている
のかも知れません。

それに彼はある時期まとまって特定の作曲家を取り上げたりしますが、特に古典物に取り組む際には、
必ずと云って良いほどオリジナル楽器で演奏をしているエイジ・オブ・エンライトメント・オーケストラと
試演をしてから臨んでいるようです。これは例えば数年前に行なったウィーン・フィルとの
ベートーヴェン・チクルスにおいても大いに成果を上げていました。

シューマンそしてブラームスと時代が進行して、なんとこの秋にはフォーレ、ドビュッシー
それにラヴェルまでやって来ました。このイギリスのオリジナルオーケストラで
近代フランス物を・・・とちょっと半信半疑でしたが、9月にケルンで行われた演奏会に
でかけてきました。まぁ昔から彼はフランス物も得意にしていて、何時だったか
バーミンガムのオーケストラとの演奏を聴いた事がありましたが、実に丁寧で気持ちの良い演奏でした。

この日はフォーレの「ペリアスとメリザンド」やドビュッシーの「牧神」それにベルリオーズの「幻想」でしたが、
圧巻はエマールと共演したラヴェルの「左手の為のピアノ協奏曲」でした。

先ず嬉しいのはピアノが1790代のエラール製です。これが鄙びやかで優美な響きがします。
高音などスタンウェイのカキンと云う様なクリスタル感ではなく、円やかにコロンと云う感じ・・・
それでいてちゃんと粒立ちも決して甘くなく典雅に響いていました。
それに一般的なファゴットではなくバッソンが入っていて、これが又、鄙びた音・・・
時折吹き出されるシワガレ声の様な感じでべヒッなんて潰れたように拳を効かせられると、
もうゾクゾクする快感が背筋を走ります。

この辺はさすがにラトルの見識の高さ、ちゃんとフランス独特の古楽器を使っています。
もうフランスのオーケストラですら使われなくなった楽器を用い、もう今では聴けなくなってしまった
本来のフランス風の雰囲気を大いに楽しませてくれました。

さて今回ミュンヘンでの演奏会はハイドンの91番のシンフォニーから始まってシベリウスの
「レオンノタール」、リゲッティの良く分からない「マクベスの謎」と云う謎な曲と
シューマンの四つあるシンフォニーの中から最も地味な2番と盛り沢山でした。

ハイドンはもう定評がある処、生々としながらも端正な表現で彼には自然に合っているのでしょう。
シベリウスは初めて聴く曲でしたが、ちょっと神秘的でオドロオドロした所もあって良い曲でした。
彼はリゲッティも含め一般的には余り良く知れれていないけれど、興味深い曲をプログラムの
関連性やバランスを考慮しつつ積極的に取り上げ紹介する努力も怠っていないようです。

最後のシューマンはこの2日前に亡くなったヘンツェの為に捧げられました。
ちょっと暗くて纏まり難いこの曲を最後まで素晴らしい集中力をもって振り切りました。
楽団員も指揮者に引きずられるように、集中力を持続させ楽しんでいるように思えました。
特に弦楽軍から柔らかくて潤いに満ちた響きを引き出していた辺はさすがで、
こんな心地よい感じは昨シーズンのムーティ以来の出来事でした。

来年ウィーンの芸術週間にはベルリン・フィルを引き連れてマーラーの第二シンフォニーを
予定していますが、これは何としても行こうと目論んでいます。

by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2012-11-08 23:41 | 音楽 | Trackback | Comments(0)
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