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ホフマン物語

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バルセロナのリセウ劇場での公演は、サン・フランシスコとリヨンの歌劇場との共同制作によるプロジェクトで
演出や演技、歌唱において周到な準備を重ねてきた成果が伺われとても楽しめる内容でした。

このオッフェンバッハ唯一の正オペラは、あれだけ多くの人気オペレッタを書いて来た彼が晩年になって
音楽史に残るような名作を書きたいと願って進められますが、遂に未完成のまま他界してしまいます。

その為、あの「カルメン」でもグランド・オペラ版へと加筆したギローを初め、多くの異なったバージョンがあり、
しかも初演を行ったパリ・コミック座が焼けた時に当時の楽譜も焼失してしまった為、
現在10種類くらいの異なった版が存在しています。
唯、大きく違うのはアントニアとジュリエットの幕を入れ替えたバージョンや、
それにミューズ登場の有無が挙げられるでしょうか。
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今回の公演では何も明記はされていなかったのですが、実は初演時の版もその後何処かで発見された様で、多分その版が使われたように思われます。
何年か前のザルツブルクでの公演でもケント・ナガノがこの版を使っていたようです。
指揮者のDenéve(デネーヴ?)はフランス出身の未だ若い指揮者ですが、ショルティやプレートルの元でアシスタントの経験を積んだり、サイトウキネン・フェスティバルでも小澤さんのアシスタントをしていたようです。演奏会は何度か聴いた事がありましたが、フランス物はさすがにお手の物で、しっかりとツボを押さえ、雰囲気も十分で安心して聴く事ができました。
フランスも若い世代で中々この人と云えるような指揮者が育って居なかったので、
この人は久々の期待ができる指揮者かも知れません。
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演出はLaurent Pellyと云う人で、初めてみる演出でしたが、中々良く考え抜かれた物で、
説得力がありました。
若干モダンなスタイルながら衣装(デザインもPelly)や小道具や装置の装飾部分などは
ちゃんと物語の時代に沿ったスタイルで納得ができます。
当然オランピア(人形)のシーンなど仕掛けも面白く喝采を浴びていました。
暗幕をバックに歌に合わせて自在に宙を飛び回り、観客をオッと驚かせていました。
アリアのフィナーレが近づいた頃にカーテンの後ろからクレーンが三人の黒子に操られながら登場し、
それがグルグルと舞台中を回りハラハラする程でした。

2幕目はアントニアのシーンで一番地味な所ですが、このアントニア役をナタリー・ディセーが歌い、
そのしっとりとした歌唱力にじっくりと聴き入る事が出来ました。
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それに演出も退屈させないよう、ミラクル博士をあちこちから登場させたり、
挙句の果には奈落からランタンに乗ったミラクルが宙に吊り上がって来るという大胆なものでした。
舞台の三方向にセットされた階段はホフマンがアントニアと出会ったシーンでは、
会ってはいけない関係を暗示させる意図か中央のブリッジが壁ごと離れて行き邪魔をしますが、
とうとう抗しきれずに又繋がってしてしまうと云う手の込み様でした。

ジュリエッタのシーンも室内ですが、ソファーに寝そべったジュリエッタがカーペットごと静かに
ニコラウスの座っている所へと滑るように動き、ゴンドラをイメージさせていました。
ここで歌われる全曲中最も有名な「舟歌」は甘いメロディに乗ってロマンティックな雰囲気を醸し出しています。
ソプラノとメゾ女声二人によるこの二重唱はとてもハモるのが難しいそうですが、
途中から合唱も加わって心地よい響きの中に浸る事が出来ました。

それに全幕を通して照明が実に上手いし、プロジェクターの扱いも面白く、あちこちに色んな映像が
投影されますが、何処にプロジェクターが設置されているのか結局分からない程上手く処理をしていました。

ラテン系の劇場では良くある事ですが、結構長い出し物にも拘らず開演が20時と遅く、二回の休憩時間も
たっぷりと取ってあるので、終演はとっくに0時を回っていましたが、とても楽しむ事が出来ました。

このオペラは、昔クリュイタンス盤のレコードがパリ・オペラ座の夜景がドンと写っている綺麗なジャケットで
印象的だったのですが、如何せん内容も良く知らなかったし、3枚組なので当然手が届かない値段だったので、
あの頃は全く親しむ事もなく別世界の物として過ごしてきたのですが、こうして観るにつけ段々と親しんで、
今やとても好きなオペラの一つになり感慨深い物があります。
何年か前だったかパリのとあるアーケードをブラブラうろついていたら、レストランやお店と同じ並びで、
まるで埋もれるようにあったブフ・パリジャンに遭遇しました。
これはオッフェンバッハが自分の作品のために建てた劇場で、今も軽演劇や小さなコンサート会場として
連日のように使われています。
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中には入っていませんが写真をみると、可愛いながらちゃんと歌劇場の雰囲気をもった会場です。
オッフェンバッハが活躍した時代にはさぞ賑わった事でしょうが、今も現役として生活の中に溶け込むように存在している姿には、嬉しさと共に感動を覚えました。

by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2013-03-09 23:39 | オペラ | Trackback | Comments(0)
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