ラトルのマーラー

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ミュンヘン発ブタペスト行きのRJ.レール・ジェットは、ほぼ定刻に出発をしたのですが、
先週来からの洪水に影響で、本来回るべきザルツブルク区間が不通のためパッサウ経由と
大きく迂回することになりました。
途中ドナウに差し掛かるとさすがこの辺も水浸しの家々があったりして、ドナウも溢れんばかりの勢いで
流れていました。
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それでも一時間遅れ位でウィーンの西駅に到着しました。
以前もこの列車で行ったことがあったのですが、その時は2等にあたるエコノミーだったので、
すごく混んでいて余り良い印象がありませんでした。
今回は余り料金に差がなかったので、思い切ってファーストの車両に乗ったのですが、
これが快適そのものでした。
しかも乗り込んだ車両はこれより上のカテゴリーになるビジネス・クラス(飛行機とは逆の料金体制)が
半分以上を占めているので、大抵の人は勘違いをして次にくっついている普通のファースト車両に
乗り込むので、この車両はガラガラ、結局ウィーンまでたった一人で占領していました。
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数年前に大改装された西駅は見違えるように綺麗なショッピング・モールになってしまいましたが、
一歩外へ出ると駅舎のファサードは昔のまま残してくれましたし、目前には相変わらずのろのろと
路面電車が動いていて、懐かしいウィーンの香りが一気に蘇ってきます。
遅いお昼を済ませ、ホテルへと直行、今夜の演奏会のために体力を整えました。

そう今夜は今年の芸術週間の目玉とも云える、サイモン・ラトルとベルリン・フィルによる
マーラーの2番の演奏会です。
これはもう2010年にベルリンで取り上げられ、その後今年はバーデン・バーデンでの演奏会が
あっただけで、このウィーンでの演奏会がおそらくこの曲を彼らの演奏で聴ける最後のチャンスだと思われます。
それに最大級のオーケストラ編成にコーラスとソリストまで付いていますから、そう頻繁に取り上げる事ができる演目ではありません。

なんでも12歳だったラトル氏がこの曲を聴いて指揮者になる事を切望したそうですし、
オーケストラもR.シュトラウスによる試演とマーラー自身の指揮による世界初演をしていますから、
お互いにこの曲へ寄せる思い入れは普通ではありません。

もう6時半ころにはイソイソ、ワクワクしながら会場へ向かいました。
もう大勢の人達が詰め掛けています。
バルコニーでは金管アンサンブルがファンファーレ的な曲を演奏していて、お祭り気分を盛り上げていました。
旧友のTさんも勢い良くやってきました。
さすが彼は真ん中の一番良い席を押さえています。
私も一番音の回りの良い席で聴きたかったものですが、「よし行こう!」と決断した時には残念ながら
もう一番前の席しか残っていませんでした。
一番前と云っても、大編成のため仮設のステージが前に張り出されていて、前から4・5列分の客席が
取り除かれ、私の席は仮設ステージをカバーしている暗幕に食い込む位に接近しています。
オーケストラが入場し、私の前には第二バイオリンでちょっと大柄な女性奏者の足がドンと、
手を伸ばせば届く距離に位置しました。
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ステージ上には合唱を含め溢れんばかりの奏者が並びました。
客席は半ば興奮気味のなか、颯爽とラトル氏が登場しました。
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暫く集中するための静寂のあと、勢いよくシャワシャワシャワとあのちょっと不穏なテーマが一糸乱れず
バイオリンのトレモロによって弾き出されました。
間髪を入れずにチェロとコントラバスが運命を暗示するかのように、ザバザバジャンと勢い良く
葬送のテーマが刻まれて行きます。その行進曲風のリズムにイングリッシュ・ホルンの奏でる
不安で意味ありげな旋律が乗っかり、木管軍そして金管の合奏へと受け継がれ最初の山場は直ぐに
やってきました。
もう音は溢れんばかりで、並みの演奏だとこんな大音量ではキツイ感じで煩く感じる事もあるのですが、
いやいや気持の良い事・・・もうウットリとして全身でこの音の洪水に身を委ねています。
もうこの辺りですっかり魅了されて無抵抗状態です。

それにしても月並みな表現ながら ウ マ イ ! の一言。
それに一音一音があくまでも音楽的な魅力に溢れ、
もう惚れ惚れして聴き入っているしか仕方がありません。
時折この至近距離から例の女性奏者が奏でる音が生で聴こえてくるのですが、これがまたウットリとするほど綺麗!
軽妙かつしなやかで濁りがなく、この甘い響きに唯々聴きほれているだけです。
こんなの耳元で囁かれたら、もう完全にノック・アウトです。
まぁそれにしても複雑に書いている曲で、同じパート内でもバラバラに演奏する部分がしばしばあるのですが、あるチェロの部分では弓で弾いている人と
ピチカートで伴奏をつけている人に分かれて、しかも其々がバラバラの旋律を弾いています。
もうスコアにはどう書かれているのでしょう。

曲はしなやかな表現の二楽章、そしてあの魚に説教をしたと云われる聖アントニウスの寓話を元にした
不思議なテーマの三楽章では打楽器、それもありとあらゆる種類が大活躍し不気味ながらも
面白さ満載な楽章を経て、アルト独唱が静かに歌いだす「原光」というテーマを持つ4楽章へ
厳かに進んでいきました。

そして思い切り良く切れ目がないまま五楽章へと突き進み、静かでまるでお経を聴いているような
合唱へと受け継がれます。
この部分録音ではアカペラかと思っていたのですが、ちゃんとチェロとコントラバスが静かに
トレモロで伴奏をつけています。
そして寸断するかのように突如現れる旋律から、ホルンがホールの外で吹く奏者との掛け合いは
遠近感が素晴らしく表現され、そして回想シーンだと思われる、これも舞台裏から聴こえてくる
軍楽隊と思しきバンダとの掛け合いは、更に不思議な立体感を与えていましす。

曲は再び静かな合唱に戻り混沌とした雰囲気でこれから迎えるフィナーレの準備をしています。
そしてソプラノとアルトが加わり、オーケストラも徐々に高揚していきます。
そして遂にこの曲復活のメイン・テーマと思しき旋律がホルンによって静かにそして希望の光が
見えるような感じで吹き出されます。
このシーンでは私の席からは見えなかったのですが、後でTさん曰く何と9人のホルン奏者が
立ち上がったそうです。
この辺は多分マーラーの事ですからちゃんとスコアに指示を書き込んでいるのでしょうね。
合唱は吹っ切れたように高らかに歌い出しました、鐘や壮大なオルガンの響きが鳴り渡り、
次第にクレッシェンドしてクライマックスへと突き進んで行きます。
絶頂に達したオーケストラは更に最大限にまで音量を上げ最後の一撃で全曲を閉じました。
まだ余韻の音がホール内を震わせている間、そのエネルギーを全身で受け止めている
私たち聴衆は唯あんぐりと口を開けたまま恍惚の状態でしばし身動き一つできませんでした。

ブラボー !!!

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by Atelier-Onuki | 2013-06-11 05:18 | ウィーン | Trackback | Comments(0)
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