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「リゴレット」の公演から

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先日の土曜日はバイエルン国立歌劇場の今シーズン・プレミエの一つ「リゴレット」の公演でした。

このオペラは学生時代、卒業制作の題材に選んだ程で思い入れが強い作品です。
これにはある仕事上の事情があってやむなくこれを選んだのですが、長い話になりそうなのでこれは又何処か違う機会にと云う事に致します。

とは言え昔から大好きな作品で、ヴィクトル・ユーゴ原作の物語は起承転結がはっきりしているし、何といっても音楽が素晴らしく、
簡素な構成の中にも活々としたリズムが弾み思わず口ずさむでしまうほど親しみやすく、
叙情的な所からドラマチックな部分までバラエティにも富んでいて最後まで聴き所満載のオペラです。

最終幕でのマントヴァ公のアリア- 風の中の羽根のようにーで始まる「女心の歌」は特に有名で広く知られています。
このアリアが絶対にヒットをする事を確信していたヴェルディは初演をする前に盗作、発表をされるのを恐れて練習の期間中は一部の人にしか見せなったそうで、
オーケストラへも初日の数時間前になってやっと渡したと伝えられています。
事実このアリアは大ヒットでフェニーチェ座での初日が終わったその日の内にヴェニスのゴンドラ漕ぎの大半がこのアリアを口ずさんでいたとの噂も残っています。

それに、この歌に続く四重唱も名作で室内のマントヴァ公とマッダレーナ、そして屋外のリゴレットとジルダの四人が対比するように其々の心境を歌いながらも
一つのハーモニーとして絡み合って行きます。
当初このオペラ化に難色を示していたユーゴも後年パリで観る機会があった折に、この部分にはいたく感心をし、「文章では一行で一つの事しか言えないけれど、
オペラでは四つの心情が同時に進行させる事ができる。」と羨ましがったそうです。

オペラでは原作のフランソワ1世が検閲を間逃れる為、マントヴァ公ゴンザーガの設定に変更されていますが、このイタリアでマントヴァ公が悪役なのに
良く許可が下りたなぁと不思議に思います。
それに何といっても、あのモンテヴェルディの擁護者で歴史上それ程悪い事をしていないと思われるゴンザーガさんが気の毒です。

一度このゴンザーガさんの街中にあるお城ドゥカーレ宮殿を訪ねたことがあったのですが、中世風の立派なお城でした。
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リゴレットの家もお城の向かいであっけに取られるほど目の前の角に建っていて、中庭には小ぶりながらちゃんとリゴレットの像も立っています。
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終幕でのスパラフチーレの宿屋なると云うのも存在するらしいのですが、これは見付かりませんでしたし、ミンチョ川なるもは長細い二つの湖が
橋をはさんで城の裏側に横たわっていて地図で見ない限り川とは判別できませんでした。
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まぁ元来架空の話ですのでこれらの設定はどうでも良いのですが、ちょっと想像を膨らませて雰囲気を味わうのも面白いものです。

さて、肝心の公演は演出がシリングというハンガリー人で演劇畑の演出家らしく、ちょっと問題を提起したような内容です。
幕が上がると大きなひな壇が舞台全体を占めていて、ザット200人位いるかと思われる群集がこれに座っています。(端っこの半分位はマネキンだと思いますが)

彼らは全員白い仮面をつけていて衣装も現代風で皆な麻かなんかの素材で微かな色の違いで統一されています。
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登場人物もその群集の中から浮き上がるように立ち上がって、次から次からとステージ上へ下りてきます。
ははぁ~これはどうもリゴレットを初め登場人物は何処にでもいる群集の中から誰にでも起こりそうな状況を暗示しているかのように思えました。

ひな壇の真ん中がバリッと開いて今度はマントヴァ公に娘を奪われたモンテローネ伯爵が抗議をする為、厳かに登場しますが、
彼だけがマスクと手袋が黒で明確に他との対比をなしています。
それはこのオペラ全体のテーマとなる「呪い」を象徴しているようで、彼をからかったリゴレットに対し強烈に呪いをかけます。
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そして家路につくリゴレットの前に何とも唐突に殺し屋のスパラフチーレが大きな車輪を付けた車椅子を押しながら現れますが、これが後でキャスティングを見た処、
先程強烈な「呪い」をリゴレットに掛け、そしてもう直ぐ処刑されるはずのモンテローネ伯爵の化身なのです。

家に着いたリゴレットを迎える娘のジルダはジーンズ姿のラフな格好、リゴレットも最初からサラリーマン風のスーツ姿で何だかちょっと問題を抱えた
何処にでもありそうな一般家庭を思わせます。
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続いて登場した乳母のジョバンナ、普通はそれなりの歳をとった役柄で、結局はお金を伯爵から貰って密会の手助けをするので信用ならないのですが、
この日登場して来たジョバンナはエッこれって乳母??と思うほど若い上に色っぽく、大きなお胸を誇示するように胸元が大きく開いたタンクトップ姿です。
しかも全くやる気がなく反抗的な態度・・・
これも最終幕で判明するのですが、何とこの場面では殺し屋の妹マッダレーナとしてお色気は更にバージョン・アップして登場してきます。
伯爵は既に二幕も前でこの若き乳母とも関係があったのでしょうか・・・
何ともこの辺の演出意図は私には難解で演出家に訊くしかないのか考え過ぎか?
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最終幕、スパラフチーレの居酒屋も普通は屋内と戸外に分かれた舞台が一般的ですが、ここでも大階段が分かれて登場し群衆も座っています。
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例の四重唱も壁を隔てるにも壁がなく、ステージ前方のプロンプター・ボックスまで四人とも出てきてシンメトリの構図にはなっていましたが至近距離で歌っていました。
それていよいよジルダが旅姿の男装で現れるシーンも、純白のウエディング・ドレスを思わせる衣装です。
殺害シーンも殺し屋が押してきた車椅子に腰掛けおもむろに黒のマスクを付けます。そしてマッダレーナがバケツに入っていた黒い液体をドレスに振り掛け殺害を暗示させていました。
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このシーン普通は殺害したジルダを袋に詰め川原まで運ばなくてはならないので、演技的に時間も掛かりその間歌う事が出来なのですが、
さすがヴェルディさんこの辺は劇場人として芝居をちゃんと心得ていて、その間26小節もの間オーケストラをドラマチックに鳴り響かせ緊張感を保つように配慮されています。

この身代わりになったジルダには観客の同情が集まりますが、私にはどうもしっくりしない気持ちになります。
若気の至りと云ってしまえばそれなりですが、どうもマントヴァ公が偽っていた幻の学生との恋に恋をしたのかなぁ~。・・・

私としては一人の父親としてリゴレットが可哀想でなりません。

by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2013-07-23 19:42 | ミュンヘン | Trackback | Comments(0)
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