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演出家パトリス・シェローさん逝去によせて

昨日は残念な事に又一人の偉大な演出家パトリス・シェローが亡くなりました。
未だ68歳と云う事で未々彼の演出作品を観たかったのにその早い死が惜しまれます。
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シェローは俳優から映画監督、演劇の演出そしてオペラ演出へとその活動を広げて行きました。
中でも1976年にブーレーズと組んだバイロイト音楽祭における「ニーベルングの指輪」での演出が
大きなセンセーションを巻き起こし世界にその名を轟かせました。
[ラインの黄金]では舞台一面に大きなダムを設定した装置も話題になりました。
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若い頃はやはり天才演出家のジョルジョ・ストレーレルの元「ミラノ・ピッコロ座」でも働いていて、その優れた手法を身につけたようです。
このピッコロ座は元来ヴェニスで生まれたコメディア・デラルテを継承しているのですが、
この16世紀に出来た全ての喜劇の元祖ともいわれる演劇を現代風に蘇らせ、
それは抜群の演技力と面白い仕掛けに溢れています。
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昨今はモダンな演出が多く溢れていて、物によっては演出家の独りよがりや、思いつき程度のレヴェルの低いものも多くあります。
シリアスな演劇なら多少は理解も出来るのかも知れませんが、オペラはあくまでも音楽が主役で
その様式を崩してしまったらまるで違う世界の出し物と化してしまいます。
それに最近はやたら汚らしかったり、エログロ的なものまで登場してすっかり幻滅してしまい途中で帰ろうかと思うものまであります。

同じモダンな解釈でもシェローの場合は音楽が持つ様式感をちゃんと心得ていて、それに則って均整のとれた演出を心がけています。
それに彼の場合は何といってもお洒落・・・それはそれはセンスに溢れていて観る側を気持ちよくさせてくれます。
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上の写真はテアター・アン・デア・ウィーンで観たコシ・ファン・トッテですが。

彼の演出作品では他に96年のザルツブルクにおける「ドン・ジョバンニ」を観る機会がありました。
その舞台装置は直方体の造形物で構成され一目見ただけでその形状の構成や色使いにセンスが溢れたもので、
まるで淡い色調のクレーの絵が立体になったような感じがしました。
そしてこの立体が場面ごとに上下左右にと動き其々のシーンの情景を作りだしているのですが、
実はこのドン・ジョバンニは装置家にとっては一番難しい演目の一つと云われています。
難しい問題点は幾つかあるのですが、その一つに1幕6場、2幕も6場と云う多くのシーンを
音楽が途切れることなく速やかに変えて行かなければなりません。
まぁ逆に装置家の腕の見せ所とも云われています。

さて、この装置には色んな仕掛けもされていて飽きないよう配慮がされています。
エルヴィラがバルコニーに出てくるシーンでは2mほどの鉄柱が壁の角からスーと倒れて来て、ブリッジを形成し、
その細いブリッジ上にぶら下るような格好でエルヴィラが登場しました。
もう観ている方が心配になるほどで、歌手の方はさぞかし怖かった事と思います。

それに圧巻は騎士長の石像が現れるシーンで、突然壁が破れて強烈なストロボがチカチカと光ったと同時に
大きな石像の頭がゴロゴロと飛び込んで来てドン・ジョバンニが下敷きになってしまいます。
それは大きな頭で直径が2mはあったと思われ、これも危険な演出でしたが良く演技が出来たなぁと感心しました。
歌手もフルラネットのドン・ジョバンニ、ターフェルのレポレロなど豪華キャストで楽しめました。

この公演には日本から遊びに来ていた叔父と一緒に行ったのですが、チケット売り場ではもう完売との事、・・・
暫く様子を見ていたら急なキャンセルが出たのかホテルのベル・ボーイらしきお兄ちゃんが手にチケットを掲げてどうも売りたいようです。

「幾らの席?」と見せてもらったら、何と一枚は4500シリング、もう一枚も3600シリング、二枚で大体8万円・・・そんな高いチケットなど買えません。
「ちょっと一周回って又帰って来てちょうだい!」 と殆ど相手にしませんでした。

開演時間も迫り殆どの人達がゾロゾロと入場し始め、ちょっと焦りかけた処に先程のお兄ちゃんが未だ手にチケットを持ったまま帰って来ました。

まぁ8万円なんて払えませんが「どう・・・二枚で5000シリングでは?」と尋ねた処、
このお兄ちゃんアッケラカンとして「ああ良いよ!」と、これなら最初から訊けば良かったと思いつつ財布を見ると
何とそこには4500位しか入っていませんでした。

「すまん、足りないわ・・・これだけしかないけど・・・」、「それでOKだよ!」と交渉成立。向こうも早く売りたかったのでしょうが、
「もうもっと早く云ってよ!」と思いつつもイソイソと会場へ入って行ったのを懐かしく思いだします。

この時の公演は残念ながら映像も残っていませんし写真すら見つからないので、
もう観るチャンスがありませんが、何時かまた再演される事を願っています。
唯、彼は再演される際はキャスティングが変わるとわざわざ演技を付け直しにやって来たと云われていますから、もう観る事ができなでしょうね。・・・

あんなに素敵な演出をしてくれたシェローさんのご冥福を祈りつつ。・・・


by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2013-10-09 00:28 | オペラ | Trackback | Comments(0)
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