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ドビュッシーの「海」は

以前ロンドンに滞在していた折、日帰り旅行をする時間が出来たのでヴィクトリア駅から列車に乗り込み、
南東にあるイーストボーンと云う海岸の町へ向かったことがあります。

ここはドビュッシーがあの「海」を完成させた町だと聞いていました。

長閑な丘陵地帯を列車に揺られること二時間ほどで到着しました。
遅い朝食を取ろうと駅前のPabに入りましたが、結構混んでいてその殆どがお爺ちゃんたち、
皆と云って良いほど殆どの人が朝からビールを飲んでいます。
かつては逞しい海の男たちか・・・今は昔を懐かしむだけの酔っ払いと化してしまったのでしょうか。・・・

町も人出はそこそこあって活気はあるのですが、あの港町独特の何処となく侘しく寂しさが漂っています。

先ずは駅前からバスに乗って有名らしい「セブン・シスターズ」と云う白い断崖絶壁の方から見に行く事にしました。
30分ほどでバスを降り川に沿って丘陵を海に向かいました。
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周りの牧草地にはたくさんの羊が放牧され長閑ながら寂しい風景が続きます。
道と云っても人が歩いた跡が付いている程度で、しかも湿地なのか何処もかしこもぬかるんでいて靴はドロドロの状態です。

それでも途中に点在する潅木の中からはヒバリの鳴き声がひっきりなしに聞こえてきて、
ああそう云えばこの辺出身の作曲家だったヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」なんて曲もあったなぁ~と納得していました。

20分ほどでようやく丘の麓にある民家に到着しました。
もうここから白い岸壁が遠くに見えています。
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更に丘の方へと登って行きましたが、途中のベンチには未だ供えたてと思われる瑞々しい花束が二つ置かれています。
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近くには「“Cliff Edge”から先へ行かないように」と看板が設置されていますが、どうも
白浜の三段壁と同じ不名誉な自殺の名所のようです。
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丘からはセブン・シスターズの岸壁が時折差し込む陽の光に白く輝いています。
これは太古の時代に北フランスの海岸線と繋がっていたのが、地殻の変動で引きちぎられたのでしょうか、まるでパンを引き裂いたような形状です。
そのクッキリと裂かれた線に沿って牧草地が広がる風景はシュールそのものです。
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ちょうど引き潮だったので海岸を沖の方まで歩き眺める事ができました。
対岸のノルマンディ辺りでもそうですが、この潮の満ち引きの激しさは相当のものです。
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岸壁を眺めるのも堪能したので今度は別のもっと川に近いルートを取って歩き出しましたが、道は更に泥るんでいて苦労を強いられました。

バスは町を通り越し更に海岸線まで進みます。
この海岸はイギリスでは有数のリゾート地だそうで、立派なホテルが立ち並んでいます。
さてドビュッシーが泊まった云われるホテルは、まぁグランド・ホテルと云う位ですからそこそこ大きなホテルだと思われるのですが中々見つかりません。
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もう諦めようかと思うほど歩いて行きましたら要塞の向こうに白亜の殿堂のような建物が見えて来ました。
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その大きさはホテルと云うよりも御殿と云った感じですが、その屋根の形やファサードの雰囲気はフランス風でなるほど、
それでドビュッシーが選んだのかなぁと納得していました。
それにしても宿泊代はとんでもなく高そう・・・彼はもう有名になって結構稼いでいたのでしょうね。
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あの「海」の最終楽章を頭の中にイメージしてみたのですが、このホテルから見える風景は海原が広がって行くだけで、ちょっと感じが違うようです。

恐らく「セブン・シスターズ」にも訪れその荒々しい光景もイメージしたのでしょうか。・・・
尤も作曲し始めたのはブルゴーニュだと云われていて、そこには海などはなく彼自身も「昔に見た海の印象を元に作曲した」と言っています。
印象と云えばジャポニズムも意識しているのかちょっと東洋的な雰囲気が醸し出されるシーンもありますし、
事実初版の楽譜には北斎の描いた「神奈川沖波裏」が採用されていて、その大胆な構図の絵は後々もレコード・ジャケットの表紙として多く使われていました。
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逆に私個人はドビュッシーと云えば直ぐにモネを思い出し、
彼が描いたエトルタの暴風雨の絵やベル・イル島で描いている大きな岩に波がぶつかっている絵を思い浮かべます。
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以前マルセイユのバスに乗っていて町外れの丘を登りきった時、パァ~と青い海が開けてきました。
そしたらバスの後方から女の子の声で「ラ・メール~ラ・メール~」と興奮気味に聞こえてきました。
誰でも海が見えるとワクワクするのですね。・・・
まぁこっちの「海」はシュルル・トレネでしたか。・・・



by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2013-10-23 02:33 | イギリス | Trackback | Comments(0)
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