来年2月に予定されている大きなイヴェントの仕事は佳境を向かえ、決めなければならない項目が山積み状態、
あれこれと悩み多き日々ですが、寸暇を縫ってウィーンへ行ってきました。 それはアバドが長年の朋友ポリーニとベートーヴェンのピアノ協奏曲5番いわゆる「皇帝」を演奏する予定だったからです。 もうお二人ともご高齢だし、この組み合わせでの協奏曲なんて最後のチャンスかもと思い早々とチケットを押さえていました。 結局は心配をしていたアバドの健康状態が回復することがなくキャンセルされてしまいました。 9月の日本公演もキャンセルをされていますし、10年ほど前には胃がんの手術も受けられているので心配ですが、 又早く復帰されることを願うばかりです。 それでも代役にハイティンクと巨匠を立てたところはさすがです。 このオーケストラはボローニャで2004年にアバドを擁立して創設されたオーケストラで、 モーツァルトもボローニャで大きな啓発を受けた縁から彼の名が頭に付けられたそうです。 イタリアは何といっても音楽の先駆者にも関わらず、意外なことにシンフォニー・オーケストラは最近まで存在しませんでした。 それは個々の奏者は腕が立つのだが、個人プレーに走りがちでアンサンブルという点ではいささか纏まりに欠ける傾向がある為と云われていました。 そんな中、アバドは教育にも献身的に貢献している人で今までもヨーロッパ室内管やマーラー・チェンバー・オーケストラ、 そしてルツェルンの祝祭オーケストラを育て、いよいよこの若い人だけを集めたモーツァルト管弦楽団に取り組んでいる最中です。 ![]() 会場のムジーク・フェラインは何時もよりムンムンとした興奮気味の雰囲気で、聴衆の人々も気合が入っているようです。 緊張感が漂う中いよいよポリーニとハイティンクが登場しました。 ハイティンクは84歳と云うご高齢にも関わらずお元気な様子、それに引き換えあの「青白い青年」だったポリーニは少し背中を丸め小さくなったようで、 歩き方もちょっと危ない感じのヨチヨチ歩き、未だ71歳と云う歳にしては心配な感じを受けました。 かつて若いころは「追っかけ」がどの演奏会に行っても押し寄せていましたが、今はその面影を想像することが難しくなりました。 ダーンと堂々としたオーケストラの響きで始まった曲はすぐさまピアノがスタイリッシュに絡んで来て, さすがピアノ協奏曲中の「皇帝」だとすでに再認識させられます。 ちょっと心配だったポリーニのピアノもクリスタルな輝きは健在で指の動きも衰えを感じさせません。 昔は剃刀のように鋭角的だった切れ込みも、今は少し角が取れ柔らか味や暖かさを感じさせるようになっています。 曲はスマートながら堂々とした巨匠の風格が漂っています。 それにしてもこのオーケストラは良く歌うし、奏者個々のレヴェルの高さがうかがわれます。 それにやる気満々のバイタリティが沸々と伝わってきて気持ちよく聴く事ができます。 編成も60人居るかいない位で、この曲にしては小編成ですが、ちゃんと豊かに響いています。 さすがアバド・・・良いオーケストラを育てているではないですか。・・・ まぁこの日はハイティンクの功績も大いに影響しているのでしょう。 ポリーニも何時ものアバドとの共演時の様に阿吽の呼吸で弾くのではなく、しっかりとハイティンクの意図に従っています。 時折重要なポイントではピアノに対してもさりげなく指示をだしていますが、ポリーニもこれにすかさず反応して引き締まった演奏になっています。 静かで何処までも綺麗に流れる2楽章を経て、切れ目なく移る3楽章もピアノが 何ともスムーズに自然な流れで入って行きました。 曲はスピードを上げながらもあくまでもスマートで気品が漂っています。 もう終ってしまうのが勿体無いと思わせるほどですが、この巨匠二人の共演は堂々としたコーダと共にエンディングを迎えてしまいました。 ![]() さて、後半の演目は当初予定されていた、シューマンの交響曲3番「ライン」に代わってベートーヴェンの6番「田園」です。 まぁシューマンの「ライン」も好きな曲ですが、ここはウィーンですから個人的には「田園」になってくれて嬉しく思っていました。 シミジミとした思い入れで始まった曲は落ち着いた雰囲気の中ゆったりと流れて行きます。 ハイティンクという人は昔から伝統的な解釈で、表現も中庸を得ていてけして冒険をしない指揮者です。 少し不器用な所もあって面白く聴かせるようなタイプではありません。 唯、ここ数年来はさすが巨匠の域にまで来ていて、その表現は迷いがなく堂々としていて、 曲のツボをしっかり押さえていますから安心して演奏に委ねることができます。 この曲も何の滞りもなく自然に流れていて気持ちよく聴く事ができます。 時折、ピアニッシモからフォルテまでの強弱を大きめに取ったりと変化を付け曲に幅を持たせています。 それに表現があくまでも軟らかく深みもあってドンドンと引き込まれて行きます。 ここでもオーケストラの優秀さに感心で、その響きは明るく伸びやかでさすが南の国のオーケストラだと実感させられます。 4楽章、嵐のシーンでも感情に任せての音響とは無縁で、あくまでも音楽的な領域を踏み外さない落ち着きがあります。 あのブドウ畑が連なる丘陵地帯に明るい陽が差し込んでくる最終楽章も、落ち着いた歩みの中にイタリアの太陽が差し込んでくるような, 明るい響きが良く溶け合って気持ちよく全曲を聴き終えることができました。 ![]() 外は時折雪がチラチラしていますが、こんなに気持ちが良い「田園」を聴かせてもらったので、 「よし明日はヌスドルフへ行くぞ!!」と心に決めました。 by Atelier Onuki ~ホームページもご覧ください~ 応援クリックありがとうございます! ![]() 人気ブログランキングへ
by Atelier-Onuki
| 2013-12-10 04:09
| ウィーン
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