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「ブロムシュテットとウィーン・フィルの演奏会から」

先日、ブロムシュテットとウィーン・フィルの演奏会があってケルンのフィルハーモニーへ行ってきました。
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演目はベートーヴェンの交響曲8番と7番と云う初演時と同じ組み合わせでした。
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ブロムシュテットさんは正統派の指揮者として長年活躍されていて、その実力は誰もが認める指揮者です。
もう88歳と云う高齢にも関わらず、驚くほどお元気に活躍されています。

これだけ実力があったにも関わらず、このウィーン・フィルに招かれたのは、つい最近2011年のことで、
それもザルツブルク音楽祭で予定していたアーノンクールが病気になった為、急遽代役として呼ばれたものでした。

80歳を超えた指揮者が初めて招かれたのは、大昔のピエール・モントゥー以来のことです。

それにはブロムシュテットとウィーン・フィルという対極の資質ゆえ控えられて来たのでしょうね。

徹底した菜食主義者で、余計なものを一切表現しない禁欲的で筋肉質な演奏を心がけてきた指揮者に対し、
ウィーン・フィルといえば柔らかく豊麗な響きで、ちょっと厚化粧ながらその魅力をプンプンと醸しだすオーケストラです。

まぁ普通に考えると、「これはギクシャクしてしまうのでは~」と思ってしまいます。
唯、一つ共通点といえば、それはお互い正統的な良い音楽を目指している所でしょうか。
(これが一番大事・・・と云いながら私自身がどこまで分かっているのかは疑問が残りますが・・・)

ウィーン・フィルを聴くのも久しぶりだったので、どんな演奏になるのか楽しみにして登場を待ちました。

コンサート・マスターのキュッヘルさんを先頭にオーケストラが左右から登場しました。

オーケストラによっては全員が登場し終わったあとから、登場するコンサート・マスターがいて、
その存在感をアピールしていますが、一番の責任者ですからウィーンやベルリンのように最初に登場してもらいたいものです。
(まぁウィーン・フィルには4人もコンサート・マスターがいるので、こんな芸当も出来るのでしょうか。)

調弦も普通は一番音程が安定しているオーボエのミの音に全員が合わせるのが常ですが、
ウィーン・フィルはコンサート・マスターが最初に音を出し、その音程に全員が合わせます。

いよいよブロムシュテットさんの登場です。
スリムで長身の指揮者はその歳を全く感じさせない足取りで颯爽と現れました。

威厳をもってと言うよりも腰の低い振る舞いで挨拶を終え、8番の交響曲が振り出されました。

「ジャーン、ジャジャジャ ジャン」と颯爽とした出だし、
それは気品が保たれた明るさで、それに柔らかく木管群が引き継いでいきます。

其々の小節の頭も程よいアクセントが付けられ、引き締まった印象を与えています。

リズム、テンポとも歳を全く感じさせない溌剌としたものでグイグイと引き込まれていきました。

1楽章はあっと言う間にすぎ、緊張感を漂わせながら休むことなく
2楽章の冒頭を管のリードを伴って弦が可愛く刻みはじめました。

ここでは弦と木管との微妙な旋律のやり取りが、絶妙なニュアンスで掛け合っていて
「ウッ~ キレイ…」と思わせる瞬間が次から次からと現れます。

やっと休憩が入って3楽章へと入っていきました。
大きくウネル音型は柔らかい弦で受け止められ、自然とこちらの体も心地よく揺られているようです。
曲が盛り上がりトランペットがファンファーレ的にアクセントを付けたあと、
ホルンが絶妙なタイミングで繋いで行きます。
とうとうと流れる音楽に身を委ね良い心持に浸っていました。

ここでも休むことなく小刻みに弾き出されたヴァイオリン群で4楽章は始まりました。
金管群も加わり曲はフィナーレに向かって盛り上がって行きますが、
ここでも品位が保たれウルサク感じる所などは皆無です。

あくまでも柔らかく奏でられる響きの中で、その心地よい音の洪水に身を預けていました。


それは休憩後に演奏された7番の交響曲でも同じで、冒頭のアインザッツ「バ~ン、」
とフォルテッシモで全奏されても引き締まった響きに柔らかさが保たれています。

頭の一撃を聴いただけでも心地良いのですが、「チャチャチャチャ、チャチャチャチャ」と弦が絶妙に刻みだし、
それを新しい音型で木管群が柔らかく語り出します。

特に静かに始まる2楽章における弦のやり取りは絶妙で、なん度も「オッ~」と云ってしまいそうになります。

最初の所ではコントラバス、チェロを伴奏に伴い珍しくヴィオラが主旋律を静かに奏でるシーンがありますが、
もう萌えるような弱音が浮き上がり、もうウットリとしているだけです。

3楽章からは金管や打楽器が今までより活躍することが多くなりますが、
金管は相変わらずウィーン風の渋くて円やか、
それに何時も感心するのですがティンパニーが上手いこと。・・・
連打する部分でも一打一打、表情に味わいを付けた深い演奏には感心させられます。

「ジャンジャカジャン」の全奏で始まる最終楽章では益々勢いが増し、
グイグイと爽快に進められて行きますが、ここでも丁寧に表情が付けられていて荒さは微塵もありません。

フィナーレも推進力満載で盛り上がりますが、ちゃんとした抑制は効いていて、
「フ~ム、大人の演奏だなぁ」と感心しました。

初演時では7番の2楽章がアンコールとして演奏されたそうですが、今日は「エグモント」序曲でした。
これも引き締まった中にも柔らかさや潤いも保たれた素晴らしい演奏でした。
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普段の定期公演ではアンコールはありませんが、ツアーの時は普段ウィーン・フィルを
余り聴く機会のない人たちの為にアンコールを取り上げてくれるのはありがたいことです。

それにアンコールで取り上げるような小品は普段のコンサートでは
中々聴く機会が少ない曲が多く、これも嬉しい限りです。

もう10年以上前でしょうか、やはりこのホールでムーティとウィーン・フィルでもアンコール曲を演奏してくれました。
いきなり「ジャン!」と全神経を集中させた衝撃的な一撃がうたれ、まるで雷に打たれたような衝撃が全身に走りました。
それはヴェルディの「運命の力」序曲でしたが、わが生涯でも一生物の名演奏で、
その呪縛に取り憑かれたように暫くこの曲を追っかけたことがありました。

偶々でしょうがウィーン・フィルが何年かにわたり、続けてこの曲を取り上げた事がありました。
指揮者はゲルギエフを初め、メータではオペラ全曲をそして最後は同じムーティでしたが、
このアンコールでの衝撃ほどではありませんでした。

生の演奏では演奏者にとっても思いもかけない瞬間が降臨するのでしょうか、これがあるから演奏会はたまりませんね。

さて、このホールは親切でクロークにスイスの「ノド飴」(Ricola)が置いてあって自由にとれるのですが、
この日はなんとホールから出てきた人々にビールを配っています。
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地元のビールKölsch (ケルシュ)はアルコール度も低くちょっとスカッとした味わいですが、
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演奏を聴き終わったカラカラの喉にはありがたい潤いで、一気に飲み干してしまいました。



by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2015-11-08 02:23 | デュッセルドルフ | Trackback | Comments(0)
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