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メータ・ウィーン・フィルによるマーラー交響曲2番「復活」の演奏会から

5月の爽やかな空気に包まれて会場のムジークフェラインへと向かいました。
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今朝は今回ウィーンでのメイン・コンサートと位置づけたメータとウィーン・フィルによる
マーラーの交響曲2番「復活」の演奏会です。
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というのも私が初めてこの曲に接したのは40年ほど前にやはりメータがウィーン・フィルと録音したレコードで、
それは録音の素晴らしさも相まって大変話題になったものでした。
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尤もその頃は私も未熟で曲の内容など余り理解が出来ないまま、むしろ録音の方に興味があったのかもしれません。

と言っても今でも成熟したとは云いがたいのですが、4・5年前からこの曲のライヴに接するようになってから、
少しずつ親しみが湧いてきて、その内容の凄さをやっと楽しめる様になってきました。

そんな訳で彼らへの思い入れは熱く、昨年この演奏会が発表されたときから、是非とも聴きたいと思っていました。

それに会場の大きさの問題か、ウィーン・フィルがこの曲を取り上げるのは、ここ何十年とありませんでした。

メータもベルリン・フィルやイスラエル・フィルなど色んなオーケストラとの共演を聴きましたが、
やはりウィーン・フィルと一番相性が良いようです。

10代後半からウィーンの音大で勉強したので、ウィーン流を心得ていますし、
本質的な部分からくる彼の濃厚な表現はウィーン・フィルの体質にもピッタリです。

事実、昔聴いたバルトークのオケコンやブラームスの3番など、今までこれ以上の演奏に接した事がないほど圧倒的な名演でした。

そんな彼も80歳・・・昨年はキャンセルした公演も幾つかあったので、体調を心配していたのですが、
3日前の演奏会は元気に振ったようで、ワクワクしながら開演を待ちました。

長~い曲なので何時ものように入り口付近で開演前のニコチンを補給していると、
引率者を先頭にバラバラとシニアの方々が30人ほど集まって来られました。
皆さんのバリッとした着こなしから、その気合が充分に伝わってきます。

今日の席はパルテレ・ロジェという、私の好きな平土間サイドの一段高いところです。

何時もより興奮気味の観客たちを掻き分けメイン階段を上って、いよいよ席に着きました。

オーケストラはすでに殆どの団員が入っていて各々が各パートを練習をしています。

オーケストラ編成は最大級ですし、150人ほどの合唱も入りますから、前から3列ほどの客席が取り払われ、
弦楽器群が全部入れるほどの仮設のステージが張り出しています。

ふとコンマスの席を見ると、キュッヒルさんが入っておられますが、何と昨夜観た「フィデリオ」でもピットのトップに入っておられました。
夜10時位まで掛かった公演をこなし、翌朝11時からの演奏会でもトップと凄い体力と精神力の持ち主です。
彼は私と同い年ですが定年の延長をオーケストラ側から依頼され
今年の8月まで第一、コンサート・マスターを勤められる予定です。

開演が迫りゾロゾロと聴衆が席に付き始めました。
先ほどの日本から来られている人たちも数箇所に別れていますが、其々がカテゴリーの一番高い席に付いておられます。
何人かのご婦人は和服姿でニューイヤー・コンサートの時よりも多くおられるようでした。

私の前の一列目にも5・6人の方々が陣取られました。
暫くして前に座っていた紳士が私の方を振り返り 「日本の方ですか?」・・・「は、はぁ~ぃ」 と答えると、
「昔、ホールの見学に参加したことがありまして、その時モスクワ・フィルのリハーサルをやってたんですけど、
ピアニッシモが綺麗でね~、演奏会を聴くのは初めてなんですけど楽しみですわ~・・・」、
「この床の下と天井の上にも空間があるんで良い音がするんですわ~」
と一気にお話をされ半ば興奮気味です。・・・

その後も隣の同行紳士とお互い汗を拭き拭き熱く語られていました。

そんな中、拍手と共にいよいよメータがゆったりと登場致しました。
この大曲の演奏を前に落ち着いた振る舞いはさすが巨匠です。

颯爽としたテンポで弦楽のトレモロが奏でられ、
それに乗っかるように ザバザバザンとコントラバスが勢い良く刻み込みました。

この奇妙なリズムの行進曲風に始まった曲は、
これまた不気味な音色のオーボエに受け継がれ長~い長~い一楽章目が始まりました。

メータの棒は意外と足取りも速くキビキビとしたテンポです。
これは40年前に録音した時よりも速いかも知れません。
表現も下手な思い入れなどなくグイグイと練られた趣で進んで行きます。

曲は盛り上がりをみせ打楽器を伴った金管群の最初の炸裂へと進みました。
もう、既に会場が割れんばかりに鳴っていて、聴覚の限界を超えそうですが、
いや未々これからもっと大きな炸裂が幾つも待っているし、フィナーレの大爆発など如何なる事やと不安がよぎります。

それでもメータの指揮ぶりは、決して大げさな動きをしなくてもこれだけ大きな音量を引き出せるあたり、さすが巨匠です。

奇妙な行進曲はハープを伴ってハタと表情を一変させ、ヴァイオリンによる甘い旋律が夢見心地に漂います。
この感じは作曲をしていたアッター湖畔の自然を思い浮かべているのでしょうか・・・

この穏やかな一時は長続きせずに、すぐさまガリガリと奇妙な行進曲風によってかき消されてしまいます。

そしてこの長い一楽章のフィナーレへと盛り上がったと思うと、ぐっと音量を落し、
消え入るような力のないトランペットが震えるように響きます。

この部分、4・5年前BRとヤンソンスのゲネプロを聴きにいった時、
演奏を前に、一音楽ファンでありながらこの曲に人生をかけたようなギルバートさんのレクチャーがあって、
「これは沈み行く夕日のイメージで描かれているのだ。」と説明していました。

私もアッター湖畔に漂う夕刻を思い出していました。
曲はさらに音量を下げ再弱音のピッチカートで緊張感あふれるフィナーレを閉じました。
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2楽章は奇妙な節回しながら弦楽器群の静かで甘美な旋律で始まりますが、
ここではさすがウィーン・フィル独特の柔らかく甘い響きで心地よく酔いしれます。

普通このような甘美な旋律が続くシーンではテンポを揺れ動かすような感情移入も入るのですが、
さすがメータは下手な感情やテンポをいじらず淡々と進められていきます。

面々と綴られた旋律は金管が加わり一時の盛り上がりもみせますが、
ぐっと音量を絞り静かに舞曲風のピチカートへと移ります。

ここでも弦楽器間のピチカートのやり取りが絶妙で、思わず固唾を呑んでしまいます。
フィナーレもハープを伴った柔らかいピチカートで閉じられました。

ドドンと打楽器の一撃で始められた3楽章は“魚に説教をした”と伝えられている
「聖アントニウス」の話をテーマにしていますが、
軽快なリズムに乗ってありとあらゆる打楽器が活躍しますが、滑稽で奇妙な楽想です。

闊達なヴィオラのソロが入り金管によるおどけたリズムはまるで「鳥獣戯画」を見ているようで、
“魚は我々人間のこと”だったのかなぁと思わされます。

一転して甘美なメロディーを金管で奏でられますが、
ここでは一楽章で出てきたトランペットが再び力ない響きでサビが加えられ回想をしているようです。

曲は又々一変しグロテスクな盛り上がりをみせ金管群による奇妙な爆発のあと、
静かに噛みしめるように面々と奏でられ、ゴーンとドラの一撃で静まり、
「原光」と題された4楽章をアルトによる「おお、赤い小さな薔薇よ・・・」と静かに歌い出されます。

中間部での面々と歌われるシーンではチ~ン、チ~ンと弱々しく鐘が叩かれますが、
まるで仏壇の「鈴」(リン)を連想させ、何だか仏教的な彼岸のイメージが浮かびます。

曲は全奏によって一旦盛り上がるとホルンや弦楽によって希望を連想させられる旋律が暗示的に示され、
休むことなく金管の遠吠えのような掛け合いで5楽章へと入っていきました。

ここでも楽想が急に一変しトランペットが弦のピチカートに乗って、この曲のメイン・テーマを暗示し始めます。

暫くしてホールの外からホルンが遠吠えのようにかぶっています。

又一変(何度も変るのですが)した曲はフルートとファゴットで不気味な旋律に移り、
段々と盛り上りを見せメーンの旋律が一度目の爆発でその一部をお披露目します。

この直前でもシンバルが叩くのではなくシャラ~ンと軽く擦る音も何だか仏教的な雰囲気・・・
(マーラーはコテコテのユダヤ教なのですが・・・)

ドドドドドド~とティパニー2台を初め打楽器群の轟きで、いよいよクライマックスが始まると暗示させますが、・・
・ここからが紆余曲折を経て中々終らないのがマーラー・・・

金管、木管、弦群と狂ったような勢いの奇妙な掛け合いで一旦盛り上がるかと思うと、又々一変し、
不安げな旋律がたちこめ舞台裏からは軍楽隊を連想させる行進曲風の
バンダが被ってきて歪な音響で満たします。

ここは回想シーンなのでしょうか、歪で不気味なシーンですが、私はここが結構好きな瞬間です。

一旦爆発したあと又ホール外の左右からホルンの掛け合いで立体感溢れるシーンが続き、
ステージ上の木管群との絡みあい落ち着きをみせると、いよいよこの曲最大のテーマ「復活」が
合唱によって「よみがえるのだ・・・」と静かに静かに歌われだします。

このテーマにソプラノとアルトも乗っかり、柔らかいヴァイオリンによる調べでこのテーマが受け継がれます。

木管や金管も加わり面々と歌われ、もう一度静かな合唱に戻ります。

それにしてもこの合唱は上手い・・・ピアニッシモでも豊かに響いているし、微妙なハーモニーが手に取るように表現されています。

慈しむようにこの主題が出てきますが、アルトの歌と共にまた歪みだします。

ヴァイオリンのソロに続いて再び合唱が希望に向かうかのようなメロディーを盛り上げかけたり、
落ち着いたりを繰り返しソリストが「あらゆる痛みよ・・・」と絡みだしいよいよ最後のフィナーレへと向かって行きます。

盛り上がった曲は合唱によって「私が勝ち取った翼で・・・」歌い始めジワジワ、ジックリと
もったいぶりながらもクライマックスへと突入・・・

打楽器の一撃を合図に金管群が弦群に乗って高らかに堂々となり始め、
オルガンに鐘も加わりこれ以上出せないほどの大音量に、
ホールは揺れ動き天井や壁が崩れ落ちないか心配になるほど・・・
私の耳も可聴範囲を超え頭も割れんばかしの限界に達したころ、最後の一撃で鳴り止みました。

しばらくの静寂のあと、今度は割れんばかりの拍手が轟きました。
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全身が打ちのめされたようにグッタリとして会場を後にし放心状態でリング沿いを歩いていました。

周りには楽団員数名が楽器を担いでオペラの方面へ歩いています。

彼らはダブル・ヘッダーで今夜のオペラにも入ります。
これもウィーンのオペラ初登場のデュダメルが振る「トーランドット」のプレミエで気の抜けない公演です。

いやその凄い体力と精神力にはいつも敬服していますが、実は私も観る予定なので
どこかでササッとお昼をすませ夜の公演に備えました。

いや~この曲が長かったせいか、この文章もダラダラと長くなってしまいました。


by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2016-05-22 23:53 | ウィーン | Trackback | Comments(0)
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