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ビゼーのオペラ「カルメン」-1 (ニュース・ダイジェスト6月のコラムから)

戯曲の中には、時代や場所の設定を変えても大丈夫な作品と、変えると雰囲気やテーマが崩れてしまう作品があります。

前者の典型的な例が、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」をリメイクした
バーンスタインの「ウエストサイド物語」や、「マクベス」をベースにした黒澤明の「蜘蛛巣城」です。

シェイクスピアの戯曲の登場人物は、人間本来の性格や内面を追求したもので、時代や国が違ってもその本質は変わらないのです。
 
その対極にあるのがビゼーのオペラ「カルメン」で、設定を変えると事件の背景がぼやけ、全体を取り巻く雰囲気が壊れてしまいます。
今まで様々な演出家がリメイクを試みましたが、おおむね失敗に終わっているようです。
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唯一、私が観た成功例は、ベルリンのコミッシェ・オーパーで上演された、奇才ハリー・クプファー演出のものでしょうか。
設定は戦後間もない頃のドイツで、歌詞もドイツ語での上演です。
 
3幕目の「ピレネー山中」のシーンが寂しげな駅に置き換えられ、
本来は案内人に連れられ馬に乗ってくるはずのミカエラは、古い路面電車に乗ってポツリと駅に降り立ちます。

途中から出てくる山賊たちは、なんとハーレーダビッドソンにまたがり、革ジャンにサングラスで登場します。

いつもは弱々しく小心のミカエラは、ホセの胸ぐらを引き寄せて「帰ろう!」と迫り、強いドイツ人女性に変身しています。

これは例外中の例外ですが、ここまで徹底していると説得力の強い納得の出来栄えでした(本作のあらすじは次回で)。
 
さて、この「カルメン」、オペラの中でも最も人気の高い演目ですが、
作曲者のジョルジュ・ビゼーも原作者のプロスペル・メリメも、今日の成功を知らずに他界しています。

考古学者でもあったメリメは、地質調査のために2度スペインを訪れていますが、
ある地方の居酒屋で出会った男(恐らくホセ)の話を基に、この小説を書いています。

小説は人気が出たため、戯曲に書き直され上演されましたが、当のメリメは戯曲化される前に亡くなっています。

一方、この頃新しい題材を模索していたビゼーは、この小説を読んでオペラ化を決意。周到な準備の後、
パリのオペラ・コミック座で上演される運びとなりましたが、初演では、斬新な内容に戸惑った観客から散々な酷評を受けてしまいます。(続く)
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by Atelier-Onuki | 2016-06-18 19:43 | オペラ | Trackback | Comments(0)
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