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ハイティンクとBR交響楽団「マーラーの3番」(ケルン)

実はこの演奏会へ行ったのは2週間前だったのですが、翌日から急に入院することになったので今日まで書けないでいました。

会場はケルンのフィルハーモニーでこのバイエルン放送交響楽団(BR)のオーケストラを聴くのは久しぶりです。

ミュンヘンにいた頃は地元のオーケストラだったのでガスタイクのフィルハーモニーや
レジデンス内のヘラクレス・ザールへ良く聴きに行きました。

特にヘラクレス・ザールの時は立見席もあって、これが何とたったの5ユーロと信じがたい値段で、
この世界有数のレヴェルを誇るオーケストラが聴けて助かりました。
公共放送のオーケストラなのでこの辺はガツガツと稼がなくても良い環境なのでしょう。
場所も会社から近く、当日に気が向いたらブラッと歩いて出かけられました。

さて、この日はハイティンクを迎えてマーラーの3番です。
彼も87歳と云う錚々たる巨匠の領域で、未々カクシャクとしています。
ハイティンクとBR交響楽団「マーラーの3番」(ケルン)_a0280569_0483123.jpg

演奏スタイルはあくまでも中庸を得た解釈で、冒険はしないので面白みにかける部分もあったのですが、
さすが巨匠の域ですから要を得た深みのある指揮者です。

それにしても休憩なしの演奏時間が100分以上と言うオーケストラ曲では最長の曲を、
このお歳で振れるとは感心しきりです。

会場はほぼ満席状態・・・オーケストラ・バックの席にはお客を入れず、
今日は女声合唱団がやはりBRから派遣されています。
右側には少年合唱団が入っていますが、これはケルンの大聖堂に所属する聖歌隊です。
ハイティンクとBR交響楽団「マーラーの3番」(ケルン)_a0280569_049981.jpg

オーケストラ編成はもうこれ以上入れないほどのフル・オーケストラで木管、金管ともに4管と普段の倍、
重要な役割を与えられているホルンに至っては8本も入っています。
打楽器も2セットのティンパニーを筆頭にありとあらゆる種類の打楽器がズラッと並んでいます。
ハイティンクとBR交響楽団「マーラーの3番」(ケルン)_a0280569_0492344.jpg

このアッター湖畔で作曲された交響曲はホルン8本の堂々たる鳴りで始められました。
このホルンのテーマはブラームスの1番での4楽章のメインテーマから取られているのではと云われますが、
なるほど冒頭の旋律を頭の中で弦に置き換えて柔らかくイメージしてみると全くブラームスとなります。

この頃、マーラーはハンブルクの音楽監督をしていましたが、ウィーンへ進出することを望んでいました。

ちょうど、夏このアッター湖から近いバド・イシュルへブラームスも避暑を兼ねて作曲活動に来ていました。
ここからマーラーはブラームスを訪ねて足繁くバド・イシュルへ訪問をしウィーン進出へのお願いをしていたそうです。

そんな彼の思いが敬意を込めて冒頭のメインテーマに膨らませたのでしょうね。・・・
ハイティンクとBR交響楽団「マーラーの3番」(ケルン)_a0280569_1814332.jpg

さて、肝心のハイティンクの指揮は堂々としながらもキビキビとした棒運びで齢を感じさせない若々しいテンポ感です。

途中、混沌とした音系が絡み合いながら曖昧模糊とした音楽が続きますが、
ここでもオーケストラが良く整えられていて混乱する事がなく整然として進みます。

曲はいよいよ「夏の行進」あるいは「バッカスの行進」と副題が当初付けられたシーンへと入りました。

軍楽隊の行進曲を連想させるような、あえてちょっと安っぽい音系の音楽に、
時折もの凄い勢いで鳥の鳴き声を連想させるピッコロが急に絡んできます。

これって多分ツグミだと思うのですが、全く同じように鳴いている声を良く耳にします。

行進曲はあくまでも拘りをもって安っぽく盛り上がって行きます。

マーラーの場合、軍楽隊のイメージが出てくる部分は回想シーンかと思われますが、
これはかれの少年時代に住んでいた近くに軍隊があって、行進曲が遠くから聞えてきたそうです。

トランペットも夕暮れのイメージとして使っていますが、これも軍隊の夜営ラッパからきているのでしょうか。・・・

この軍楽隊風の行進曲は2番のシンフォニーでは5楽章で遠くステージ・バックから聞こえてくるのですが、
この曲では堂々とステージに上がって解き放たれたように大暴れをしているかのようです。

夢を見るかのような綺麗な部分が続いたかと思うと又、
この行進曲風は盛り上がりをみせ安っぽさの極みのような音が金管などで吹き荒れます。

こんな混沌とした部分でもハイティンクの指揮は落ち着いた棒さばきで、理路整然と進んで行きます。

打楽器が何度も叩かれアクセントを付けていますが、ここでは中々強めに鋭く叩かれていて引き締まっています。
ひょっとしたら超濃厚な演奏で有名な、あのバーンスタインよりも強く叩かせているかもしれません。

曲は一旦また夢見心地の甘い部分があったと思うと、また元気を取り戻し金管群が一斉に暴れだします。 
それにしてもここでのトランペットの安っぽい吹き方など、マーラーは何を云いたかったのでしょうか。・・・
建前と現実?・・・ 表面と裏側?・・・ 美と醜?・・・ 
良くは分かりませんが何か人生とか世の中の歪みなんかを皮肉って描いているようです。

曲はもの凄い速さで突き進み打楽器の連打でアクセントを付けながら、この長~い1楽章を格好よく閉じました。

「野原の花々が私に語ること」と一度は付けられたこの2楽章は、
弦による柔らかく夢を見ているような心地よさで始められました。
ヴァイオリン・ソロや木管がちょっとおどけるように絡んでくると、曲は益々甘い世界へと入って行きます。
トランペットの曖昧な絡みも気だるい甘さの極みで、安っぽさもギリギリの所で抑制されています。
ハイティンクもオーケストラも気持ち良さそうに柔らかく奏でていました。

又また、おどけたように始まる3楽章は「森の動物たちが私に語ること」と付けられていました。
この副題は後にマーラー自身によって削除されてしまいますが、
聴く側の我々にとってはイメージをするのにとても役立っています。

ここではマーラー好みの滑稽な鳥獣戯画風の音系が続き、万華鏡を見ているような面白さに溢れています。

静かに遠くからトランペット(ポスト・ホルンかも)のソロが聞こえてきました。
夕方のイメージでしょうかステージ上の弦が柔らかく刻んでこのトランペットに絡んでいます。
ホルンも絡みだし何とも綺麗なハーモニーです。
このままずっと聴いていたいのに、またおどけた音が邪魔をします。

突然、出走馬宜しくとばかりの安っぽいトランペットのファンファーレが追い討ちをかけ、
獣や鳥が鳴き騒ぎゴジャゴジャの喧騒が訪れます。

一頻り暴れたかと思うと、ぐっと落ち着き、またバック・ステージのトランペットとホルンが絶妙にコダマしあい、
まぁなんとも綺麗さの極みの世界へ。・・・

それも束の間、騒ぎ出したオーケストラは金管に打楽器たちも加わり一気に加速して閉じました。

ニーチェの「ツァラトゥストラはこう語った」からの歌詞に付けられた4楽章でのアルト・ソロもしみじみと品良く歌われ、
ヴァイオリンやホルンのソロも絶妙に絡んでいました。
途中でからむオーボエなどちょっと東洋風の寂すら感じさせます。

曲は一旦静かに落ち着き、間髪を入れずに“ビン・バム、ビン・バム”と鐘を模した少年合唱で5楽章が始まりました。

アルトに女声コーラスも加わり牧歌的な雰囲気で進められて行き、“ビン・バム”と軽く歌われパッとこの楽章を閉じます。

柔らかく静かに弦群によって綴られ最終楽章へと入りました。
曲は艶やかに面々と綴られて行きます。 
時折、弦にグッとアクセントが付けられ変化と緊張感が与えられています。

このアダージョのように、ぐっと押さえられた音楽が延々と続きますが、
これから15年ほど後に作曲された9番の4楽章を予感させているようにも感じられます。

曲はいよいよ盛り上がりを見せ始めたかと思うと盛り下がりを繰り返し、
トランペット群の甘いハモリを合図にグイグイと盛り上り、
最後に一旦グッと息を落し、今度は打楽器群の誘導でフィナーレを築きだしました。

ここでは金管群の炸裂も聴き所ですが、打楽器が格好良い・・・
2台のティンパニー奏者などグッと目を合わせ、ここぞとばかりに息を合わせて振り下ろしています。

まぁ格好良いこと・・・こんなのを見せられたら「あぁ打楽器奏者に成りたかったなぁ~」
なんて途方もないことが頭を過ります。

オーケストラ全開の緊張感の中“バ~ン”の一撃で格好よく閉じられました。

微動だにしない指揮者とオーケストラが、まだ漂っているエネルギーの緊張を保っていました。

パラ・パラ・パラと前列左の方から・・・間髪を入れずハイティンクが抑止しました。
私も心の中で小さく “バカヤロー !” と呟いていました。

やっと緊張が解けドッと大喝采が湧きました。

いやぁ~、実に良い大人の演奏を聴かせてもらいました。
均整が保たれたバランス良い、実にツボを得た品の良い演奏でした。

ハイティンクはこの長い曲を最後まで緊張感を保って指揮をしてくれました。
指揮台にはハイチェアも置かれていましたが、
1楽章が終った時と6楽章で一瞬座っただけで、ズット立ちっぱなしで指揮をしていました。
楽譜も置かず暗譜で通すなんて凄いことです。

終演後、写真を撮ろうと近くまで行きましたが、そこではさすがちょっとシンドそうに見えました。
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そうそう、今日も娘の彼氏が来ているはずです。
正面玄関で待ち合わせ、川沿いのバーへと向かいました。
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一杯やりながら今夜の音楽談義です ・・・ 
「あのぉ・私・・この曲を生で聴くのが始めてでして ・・・ 
何処で拍手をして良いのか分からなかったのですが・・・
周りの人が拍手をしたのでツイツイつられて・・・」

「エッあの左前列は君もか??」 ・・・ と

大いに反省会となり溜飲を アゲ ました。・・・


by Atelier Onuki
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by Atelier-Onuki | 2016-07-06 23:36 | Trackback | Comments(4)
Commented by sarai at 2016-07-05 01:45 x
初めまして、saraiと申します。
とてもよいものを聴かれましたね。羨ましいです。昨年、ハイティンク指揮LSOでマーラーの第4番を聴き、卒倒するほど感動しました。でも、第3番なら、本当に卒倒したかもしれません。アダージョの美しさは想像に難くありません。昨年はウィーン楽友協会でヤンソンス指揮VPOでマーラーの第3番を連続して3回も聴きましたが、素晴らしい響きに魅了されました。人生最後の望みはハイティンクの指揮でマーラーの第9番を聴くことです。BRSO、VPO、LSO、CSO、SKD、BPO、RCOどこでも構わないのですが・・・。
それにしても詳細なレポート、ありがとうございました。
Commented by Atelier-Onuki at 2016-07-05 18:36
sarai さま、
コメントありがとうございました。
ハイティンクは本当に巨匠の風格を備え、何よりも自然体の演奏が素晴らしいですね。
4番もミュンヘンで聴いたことがありましたが、これも品の良い素晴らしい演奏でした。 
ヤンソンスで3番・・・良かったでしょうね。・・・ しかもムジークフェラインでVPOと ・・・
多分、オルガンのあるバルコニーにはセーラー服姿のウィーン少年合唱団がずらりと並び格好良かったでしょうね。
あの豊かな音響空間に身をまかせていると夢見心地の気持ち良さだった事と想像を巡らしています。
実はこの演奏会は数年前に予定されていたのですが、病気の為キャンセルされ、渋々代役のビシコフで聴いた事がありました。
まぁオーケストラがVPOだったのでそれなりに良かったですが。・・・
何処かで9番をハイティンクで聴く機会があると良いですね。・・・
Commented by sarai at 2016-07-05 21:38 x
早速の返信、ありがとうございました。
たびたび、お邪魔しまして申し訳けありません。

ハイティンクはもっとも敬愛する巨匠で特にブルックナーとマーラーには心酔しています。ブルックナーは第9番を来日演奏で聴き、第8番はコンセルトヘボウまで出かけて聴き、もうこれで死んでも悔いが残らないと思うほどの感動、そして、最後に第7番を来日演奏で聴きました。残るはマーラーなんです。第3番と第9番が聴きたいと念願しています。ですから、第3番の記事を読ませてもらい、とても羨ましかったんです。

お暇があれば、私の駄文もご覧ください。
ハイティンクのマーラー第4番は
http://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-1325.html
ヤンソンスのマーラー第3番(3回目)は
http://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-778.html

ところでAtelier-Onukiさんは音楽家、あるいは芸術家なのですよね?
ハイティンクに関する記事はほかにもあるのでしょうか?

今後ともよろしくお付き合いくださいね。
Commented by Atelier-Onuki at 2016-07-07 00:03
saraiさま、
再度のご返事ありがとうございました。
貴ブログも拝読させて頂きました。
ヨーロッパにも頻繁に旅行をされていて、音楽も本当に愛していらっしゃるのが文章から伝わってきました。
小生も 旅、音楽、美術、美食 をこの上なく大切にしております。
以下に小生のホーム・ページを貼っておきますので、お暇な時にでも覗いてみて下さい。
では、また宜しくお願い致します。
http://atelier-onuki.com/
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