人気ブログランキング | 話題のタグを見る

マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会

実は先週ヤンソンスさんの演奏会を聴きにウィーンへ行っていました。
マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会_a0280569_1582685.jpg

1ヶ月ほど前にエッセンであった演奏会でもハーディングが代役で演奏したと
娘婿から聞いていましたし、ムジークフェラインのホーム・ページでも
フルシャと言う指揮者に代わったとのお知らせが載っていました。

そこにはアキレス腱を故障した為と知らされていましたが、
元来心臓に問題を抱えていたので、実際はもっと悪いのかも・・・と心配をしていました。

それが悲しいことに11月30日に亡くなってしまいました。

3公演ある、この演奏会の初日の事で未だ誰も知らなかった初日は予定通りの演目で行われましたが、
曲はよりによってドヴォルザークの「謝肉祭」という場違いな演目でした。

2日目にウィーン・フィルの団員の一人がこの件を知り、急遽演目を変更し
ヤンソンスが生前好きだったラフマニノフのエチュードをソリストのピアニスト、マツエフが演奏したそうです。
マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会_a0280569_1595063.jpg

私が知ったのも12月1日でやはり音楽ファンの知り合いからメールをもらいました。

すごすごと重い足取りで地下鉄の駅からムジークフェラインへの階段を上がっていきました。

ライトに照らされたファサードには北風に黒い旗が悲しげにはためき、関係者が亡くなったことを報せていました。
マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会_a0280569_20473.jpg

マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会_a0280569_21209.jpg

会場内もやや重い雰囲気に包まれホールの入り口にはヤンソンスの遺影が掛けられ
前のテーブルには記帳簿が置かれていました。
マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会_a0280569_201613.jpg

演奏に先立ち挨拶がありました。
「当オーケストラの桂冠指揮者でもあるヤンソンスさんが11月30日に亡くなられました。・・・
演目も「謝肉祭」ではなくモーツァルトの「フリーメイソンの為の葬送曲」に変更し、
演奏のあと3分間の黙祷をお願いします。」との事でした。

指揮者なしで厳かに演奏された後、全員が起立して静かに黙祷を捧げました。

最初の演目はチャイコフスキーのピアノ協奏曲1番で、
これも当初、予定されていたラフマニノフの「パガニーニの主題による変奏曲」から変更です。

それでもウィーン・フィルがこの曲を演奏することは滅多になく、
録音でも私の知る限り60年ほど前のカーゾンとショルティの盤があるだけです。

ホルンが冒頭のテーマを高らかに吹きました。
もう、このホルンの3連譜を聴いただけでゾクゾクです。

その渋みと深み、それにこのオケ独特の野性味も感じられ、
「アァ、ウィーンに来て良かったなぁ~」と最初から虜にさせられました。

ピアニストのマツエフは堂々と渡り合い、その硬質で力強い打鍵はギレリスを思い浮かべる程です。

技術的には完璧、それでもちゃんと抜けるところは抜き、叙情的な部分は柔らかく弾いています。
この人は相当練習もし、これからドンドン良くなっていく予感を沸々と感じさせてくれました。

3楽章、後半など目もくらむほどの猛スピードで進みますが、
ピアノもオーケストラも完璧で心地よい突進に身を委ねるばかりでした。

後半はバルトークの「オーケストラの為の協奏曲」で、私の大好きな曲です。

それにウィーン・フィルならではの楽しみも最集楽章でやって来ます。

それはティンパニーの一撃が“ボワァ~ン“と音程を下げる瞬間です。

普通プラスティック製のティンパニーにはペダルが付いていて、それを踏めば緩んで音程が下がるのですが、
このオケは革張りなので6箇所で張っているノズルを手動で緩めなければなりません。

今まで何度かこのオケで聴きましたが、大忙しで上手に緩めていました。

この日の指揮者はフルシャという若いチェコ人で、この演奏会が彼のウィーン・フィルのデビューです。

バルトークではまだ馴染みが薄いのかスコアを置いての指揮でしたが、
逆にオーケストラの方が「任せとけ!!」と言わんばかり気持ちが入っていて、
コンマスが指揮者との連携を全員に気合で伝えていました。

最終楽章は普通でも速いのに、更に猛スピードで一気に進められましたが、
ちゃんと丁寧な演奏で最後まで絶妙なアンサンブルやバランスが保たれていました。
マリス・ヤンソンスさんの追悼演奏会_a0280569_214417.jpg

ヤンソンスが亡くなったのは悲しい出来事でしたが、演奏会は実に素晴らしい内容のあるものでした。

考えたら今までの歴史の中でも代役が素晴らしいパーフォマンスをして、
大指揮者から世代交代を繰り返して来たなぁと感慨深く思いを馳せていました。

ヤンソンスさんは亡くなってしまいましたが、数々の名演が思い浮かべられます。
特にミュンヘンに住んで居た頃は毎月のように彼の演奏を聴くことができました。

特に印象深かったのは、先ずウィーン・フィルとの「オベロン」序曲、
バイオリン群が奏でる衣擦れのような響きはまるで天国にでも登るような心地良さでした。

又、コンセルトヘボウとのアンコールでやったシベリウスの「悲しきワルツ」
美しくも本当に悲しく冷たいロマンチズムに包まれ、まるで夢を見ているようでした。

ヤンソンスさんは亡くなられましたが、その演奏は記憶として心の中に蘇ってきます。

安らかなご冥福をお祈りいたします。


by Atelier Onuki~ホームページもご覧ください~応援クリックありがとうございます!人気ブログランキングへ
by Atelier-Onuki | 2019-12-10 02:02 | ウィーン | Trackback | Comments(0)
<< ムーティとウィーン・フィルの演奏会 ゴッホ - 6 (サント・マリ... >>