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指揮者アンドレ・クリュイタンスさんのこと (10月のコラムより)

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アンドレ・クリュイタンスさん、一度は聴いてみたかった指揮者でした。

しかし彼が来日したのは1回だけで1964年ですから私はまだ中学生、知る由もありません。

この演奏会を聴いた大学時代の音楽の先生によると、「ダフニスとクロエ」の夜明けのシーン、

フルートのソロがピーラリラ~と入って来る所で文化会館の天井が裂け光が差し込んで来たように見えたそうです。

(この伝説の演奏会はライヴ録音がCDになっています。)

私が初めてクリュイタンスの存在を知ったのは高校生の時でした。

それはベートーヴェンの交響曲全集が欲しくなり、あれこれと迷ったのですが、

結局彼の全集がお手ごろな価格で、アルバム・ジャケットの良さも手伝って購入しました。

初めて聴いた印象は、今までのドイツ系の指揮者による演奏とは違って、

まぁ何とも明るく伸びやかでエレガントな演奏でした。

後で知ったのですが、これは彼がベルリン・フィルに客演した後、

オーケストラ側から要望され録音が実現したそうですが、これはベルリン・フィル初の全曲録音でした。

その後、発売されたラヴェルの「管弦楽全集」やビゼーの「アルルの女」など、

まぁ何とも香り豊かな演奏ですっかり虜になってしまいました。

私の知る限り、これらは未だこれ以上の演奏が出現していないかも知れません。

例えば「ボレロ」では途中でチェレスタにピッコロが絡んでくる所があって、ここはあえて不協和音で作曲されています。

大抵の演奏では不協和音として聞こえるのですが、彼の演奏では、ハッと「綺麗なぁ」と思うほど絶妙にハモッテいます。

「アルルの女」に到っては、これを聴く度にあのアルル周辺の情景が浮かびあがり、

あの生暖かいミストラルにフヮ~と包まれるようです。

フランス音楽は優雅でホワッとしたイメージがありますが、

金管など時折揺れ動いて拳を利かせるシーンもありますし、ゾクッとするような怪しげな寂も隠れています。

ラヴェルの「左手の為のピアノ協奏曲」や「古風なメヌエット」における中間辺りで聴こえる

まるで金属をバシャと潰したような金管楽器の寂の入れようは、背筋がゾクッとして興奮すら覚えます。

そんなクリュイタンスの演奏を生で聴いてみたいと思いは積もりましたが、1967年62歳という若さで急逝してしまいました。

彼の没後、音楽監督をしていたパリ音楽院管弦楽団が解体されました。

その後世界中から優秀な奏者を集めたパリ管弦楽団として発足しますが、

あの懐かしいフランス独自の響きは失われてしまいました。

あの何とも野趣で怪しげなバソン(フランス独自のファゴット)の響きをまた聴きたいな・・・


by Atelier-Onuki | 2021-10-19 23:47 | コラム | Trackback | Comments(0)
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