興奮冷めやらぬまま休憩を終え、後半のプログラムに入ります。
他のお客さんもどこか落ち着きが無く、張り詰めたような緊張感が ホールを包んでいました。 ![]() 次はクリスティアン・ツィマーマンとの ブラームス、ピアノコンツェルト1番でした。 冒頭ティンパニーが激しく打ち鳴らされ、高揚した弦楽器が更に興奮を高めます。 コントラバスなどガリガリと松脂が飛び散ちるかのように激しく低音を唸らせています。 もうホール全体が大きく揺れ動いているようで、 その音の洪水に包まれた私はもう圧倒されて、腰が抜けそうになりました。 一方、ピアノの前に座っているツィマーマンはまだ若くて 今のような髭など生やしてなく、青白い、か弱そうな青年でした。 活力溢れるバーンスタインがウィーンフィルと生み出す壮大な音楽に、 このか細い青年はどう対抗して行くのだろうか、不安さえ覚えました。 オーケストラの序奏が段々と静まり、いよいよピアノがソロで弾きだされます。 これは相当気合をいれて弾きだされるのかなぁと思いきや、 いや実に静かで落ち着いた歩みで弾きだし何の気負いも感じさせません。 淡々としながらもしっかりとした音でクリスタルが輝いているようです。 音楽が進むにつれ、スピード感やスケールも充分に保っています。 このオーケストラをバックに最後まで堂々と弾きながらも、 決して正統なスタイルを崩さない彼の演奏には感嘆させられました。 後にある雑誌で読んだのですが、実はこの時彼のピアノが手違いで届かず、 やむなくこのホールのピアノを使用したそうですが、気に入らない部分があったそうです。 そんな事もあったのか、20年程経ってベルリンでライヴを再録音しますが、 私には何処にそんな不満があるのか全く分からない素晴らしい演奏でした。 当時、日本のLPの売り上げは世界でトップクラスを誇っていました。 世界有数のレコードレーベルが存在するドイツ等、ヨーロッパ諸国では 何故かLPの売上数はそれほど多くありません。 ウィーンでも記念として年に2・3枚くらいしか買わないのだと、どこかで読んだ事がありました。 日本では有名な海外アーティストの来日公演があると、来日記念と称して そのアーティストが録音した演奏会と同曲のLPが沢山販売され、実際私もよく買ったものです。 後日、ウィーンのレコード屋さんで、 この日の演奏会のLPを見つけてふと気がつきました。 ウィーンの人々は、実際に自分が行った演奏会で録音されたLPを、 自分が共有した素晴らしい時間の記念として購入しているのだと云う事を。 byAtelier Onuki ~ホームページもご覧ください~ 応援クリックありがとうございます! ![]() 人気ブログランキングへ #
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| 2012-09-17 23:10
| ウィーン
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とうとう憧れの楽友協会での演奏会のチャンスが、ウィーンでの生活をはじめて
比較的すぐにやってきました。それは1983年11月末のことでした。 ![]() 当時、ウィーンでやはり一人で暮らしていた絵描きのKさんを誘い、 初めてのウィーンフィル定期演奏会へいそいそと出かけました。 しかも指揮者はバーンスタイン。 最初はハイドンの88番のシンフォニーでした。 まず、出だしから、今まで聴いたこともない、 柔らかくてどこまでも深みのある音には唖然とさせられました。 これまで日本でもウィーン・フィル、ウィーン・フィルと馬鹿みたいに 惚れ込んでいたこのオーケストラ、沢山の演奏会にも行き、数えきれない程の 録音をLPで聴いてきました。 しかし、私の想像を遥かに超えた響きがホール全体を満たしていました。 楽しく躍動感溢れるハイドンは、一気に終楽章まで進んでいきました。 演奏が終わった後も拍手は鳴り止みません。 もう数度も挨拶に現れた彼は、とうとうオーケストラの方を振り返ると、 先程の4楽章がまた鳴り出しました。 えっ まだ休憩前なのに… こんなことって今まで体験したことがありません。 それに指揮者を見ると彼はオーケストラを前に微動だにしないまま最後まで 演奏しきりました。 これには観客も興奮気味で更なる拍手が鳴り響きました。 これは後日、テレビでこの日の演奏会の録画を見る機会があったのですが、 バーンスタインは手を使わずに、なんと目だけでオーケストラを指揮していました。 かつてバーンスタインがウィーンに初めて登場したときは、 街中で大騒ぎだったと雑誌で読んだことがありました。 記念すべき初めての演奏会では、彼の得意なマーラーの 確か「大地の歌」をとりあげています。 当時既に、マーラーの第一人者だったバーンスタインですが、 ウィーンフィルを前に奢ることなく、 「私は、皆さんからマーラーを学びに来ました。」と語ったそうです。 それから年月が過ぎ、そんな余興でこの誇り高きオーケストラを振れるまでに、 彼らから愛されていたのだなと感慨深く思いました。 そしてプログラム後半へと続きます。 by Atelier Onuki ~ホームページもご覧ください~ 応援クリックありがとうございます! ![]() 人気ブログランキングへ #
by Atelier-Onuki
| 2012-09-10 02:20
| ウィーン
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毎年、ウィーン国立歌劇場の年間予定表を郵送してくれる友人がおりました。
彼女は大学の後輩で、やはり舞台美術を専攻し、ウィーンのアカデミーで 更に勉強を続けていました。 ![]() インターネットなど存在せず、はるばる海を渡ってきた 紙の年間予定表が全ての時代。 ウィーンフィルに惚れ込んでいた私にとっては 羨ましい限りの演目内容が記載された、 その年間予定表を繰り返し眺めては、 遠い日本でため息ばかりついていました。 便りがある度に「ここはいい所だから遊びに来ませんか」 と書き付けてあり、 いつしか其の思いが高まり、ついに憧れのウィーンを 旅するチャンスが訪れました。 短い旅でしたが、この街がすっかり気に入ってしまい、 帰国後も思いは募るばかりでした。 確かモームだったか「もう何処でもいい、この街以外なら。」 段々とそんな気持ちが強くなり、 とうとう日本を出てウィーンに住もうと決意したのは1983年の夏。 不安でいっぱいの手紙をウィーンの友人に送った処、 彼女の御主人から、とても気の効いた文章で 「何の心配も要らないから来たらどうですか」 と心強い返事が届きました。 あれこれと準備をしてウィーンに降り立ったのはもう11月も末の頃でした。 南回りの長旅で降り立ったウィーンは、道路も凍り付いてすっかりモノトーンの世界に なっていました。人々の歩くスピードが日本のそれと比べ格段に遅く、 まるでスローモーションの白黒の映画を見ているような錯覚に陥ったことを覚えています。 当初は、一年ぐらい持つだろうか、貯金が無くなるまで楽しもう という心づもりでしたが、 状況が変わりウィーンからドイツへ引越すことになりました。 一年どころか、未だに日本へ帰国出来ないまま、ずるずるとドイツに居る有り様です。 ドイツやヨーロッパの旅先で折に付け水彩画を描くようになり、その数も大分増えてきました。 ホームページ Atelier Onuki ではそのような絵の数々をご紹介していますが、 こちらのブログでは絵の紹介だけではなく、クラシック音楽や演奏会、旅の話等を 綴っていくことができればと思っています。 特に旅の話では、我が母との珍道中などもご紹介させて頂きます。 日本から年老いた母親が、ドイツに住む孫達に会う為に2年に1度程度のペースで ヨーロッパへやってきていました。 その滞在中には何処かへ出かけるのですが、彼女は足が悪い為、いつも大変な旅になります。 ところがそれ故に旅の先々で、色んな人に親切にして頂いたり、 特別な人情や普段経験できない出来事に触れる機会に恵まれたのでした。 by Atelier Onuki ~ホームページもご覧ください~ 応援クリックありがとうございます! ![]() 人気ブログランキングへ #
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| 2012-08-28 22:07
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